第三ステップ 商品説明・反論解決
商談プロセスの第三ステップはプレゼンテーションです。
この時期の顧客心理は、「商品・サービスに興味を持つ段階であり、他社との違いなどに迷う段階です。
この時期の課題は、顧客の抵抗感を解くこと、自社の選択が良いことを理解させること、ニーズに基づく提案をすること、顧客ソリューションの提案、効果的なプレゼンテーションを行うことです。
そこで、これらの商談の課題への対処法を検討していきます。
お客様の反論への切り返し
プレゼンテーションの狙いは提案を受け入れてもらうことです。
この段階では、お客様は購入の意思を固めていないことも多く、提案に対して反論を示すことが多くなります。
お客様の反論に対するトークを応酬話法といいます。ここでの課題は、お客様を論破することではなく、説得することです。
対応によっては、お客様の機嫌を損ね商談が壊れてしまうことがありますので要注意です。主な応酬話法をご紹介します。
否定法
お客様の意見を否定する方法です。
① 使用して良い時
お客様の反論が明らかに間違っているときや誤解をしている時
比較的小さな問題であるとき
お客様がこちらの意見を容認するタイプの時
② 使用しない方が良い時
お客様が敏感なタイプの時
お客様が自分の意見に自信を持っているとき
お客様のプライドが高いとき
③ 使用例
「(お客様)価格が高いよね」「(営業マン)そうでしょうか。この比較表をご覧ください。同じ、グレードの他社商品と比較しても、当社の商品が高いとは言えないと思います。」
④ 使用上の注意点
お客様の意見に逆らうわけですから、論争になりやすいという危険性があります。
イエス・バット法
お客様の発言をすぐさま否定すると、お客様のプライドを傷つけ、怒り出すことがあります。これを防止する方法がイエス・バット法です。お客様の反論を一旦受け入れて、その後、反論する方法です。
① 使用して良い時
ほとんどの状況で使用できる
お客様のプライドが高い時でも使用できる
反論する必要があるとき
② 使用上の注意点
度々使用しないこと。あまり、使用しすぎると、見抜かれてしまいます。
③ 使用例
「お客様のおっしゃるとおりだと思います」と肯定して、「しかし・・・」と反論します。一旦受け入れることで、お客様の不快感を回避できます。
ブーメラン法
お客様の反論を受け入れて、「そうですね。だからこそ・・・」と、お客様の反論を購入すべき理由にしてしまう方法です。
① 使用して良い時
根拠のない反論や断りの時
② デメリット
お客様が「やりこめられた」と考えてしまうことがある
③ 使用例
「(お客様)費用がかかるからね」「(営業マン)そうですね。だからこそ、これをオススメするのです。ランニングコストが安くなるので、2年でペイできますよ」という具合です。
2-4 反論を認める
お客様の反論が正統で真実であるときには、反論を認めざるを得ません。
① 使用の仕方
商品や会社の短所を指摘されたとき、お客様の反論を認め、長所に焦点を当てて説明します。
② 使用例
お客様「御社の商品は、〇〇と比べて5万円も高いそうですね」
営業マン「そうですか、しかし、その金額を上回るメリットがあります。たとえば・・・」
質問法
お客様からの反論に対して、聞き直すことです。
① メリット
商談を進める強力な手段です。
お客様の本心を聞き出すことができます。
お客様が持っている抵抗感について、お客様の自信が再考することを促します。
② 注意点
お客様を追い詰めたり、皮肉に聞こえたりする
③ 使用例
お客様「お宅は評判が悪いからね」
営業マン「どんな点が悪いのでしょうか?」
聞き流し法
お客様の反論に対して、聞き流す方法です。
① 使って良い場合
お客様が見え透いた反論を指定値時
反論の根拠が乏しく重大でないとき
② 注意点
お客様の発言を無視することに通じますので、多用するのは危険です
③ 使用例
「(お客様)費用がかかるからね」「(営業マン)冗談ばっかり。それはそうと・・・」という具合です。
引例法
お客様の反論に対して、他のお客様の購入実績を紹介して、説得する方法です。
「同じように心配されていらっしゃったA会社さんですが、この商品を導入されたことで、生産性は10%高まったと喜ばれています。」というように使用します。
このように、データを示すことで、信ぴょう性(専門性と信頼性)が増します。
注意をそらす
予め用意した雑誌や新聞などの資料に基づき説明する方法です。
「その件に関しては、こちらの記事をご覧下さい。・・・」というようなトークです人間は、新聞や雑誌などの印刷物を信じ込む心理があります。この心理を利用したものです。
お客様の仕草で商談を予測する方法
お客様の会社を訪問し、窓口担当者の仕草や行動で、商談の行方を占う方法を伝授しましょう。
近づいて来る様子
まず、窓口担当者が近づいてくる様子を観察しましょう。ゆっくり近づいて来る時は、少し不機嫌になっているかもしれません。この時には、「お忙しいところ申し訳ありません。」と先に謝ってしまいましょう。本当に不機嫌になっていたら、それを指摘されたことでお客様は反省することでしょう。
お客様が早足で来て、視線を合わせないときは、お客様は不安に思っているかもしれません。この時には、傾聴のテクニックを使い、笑顔で応対しましょう。
椅子に座る様子
椅子に座る様子を確認しましょう。もし深く座ったら、あなたの話をじっくり聞く体勢ですので、存分に話をしてください。浅く座ったら、すぐにでも自分の席に戻りたいという気持ちの表れです。時間をかけないように結論から述べる帰納法を使い、相手の心を掴むようにしましょう。椅子に浅く座って、前傾になったら、あなたをやり込めてやろうという気持ちがあります。
脚に注目
次に、脚に注目してください。脚を開いている場合は、テリトリーを主張しています。権威主義的な行動ですので、商談は簡単ではないかもしれませんが、尊敬されたいという自我欲求が強いので褒めることが効果的です。固く閉じている場合は、不安を持ち緊張している証拠です。傾聴のテクニックを使い、笑顔で応対しましょう。また、貧乏ゆすりは「早く帰ってくれ」とイライラしていることの代償行為です。この状態になったら早めに退散するか、「わたしも貧乏ゆすりがクセなんです」と類似性をアピールするのも一手です。貧乏ゆすりは無意識の行動であり、それを意識化することで、貧乏ゆすりを止めることができるかもしれません。
腕組み
最後は腕組みです。私たちは、不安や恐怖に晒されるとお互いの体を寄せ合います。しかし、周囲に誰もいないと体を寄せ合うことができず、その代償行為として腕組みをするようになります。ですから、腕組みをしている人の心の中は、不安や恐怖に耐えているということになります。つまり、あなたとの商談に不安や恐怖を感じていることになります。ですから、会うたびに腕組みしているお客様とは信頼関係を構築するテクニックを使いましょう。腕組みをしなくなったら、あなたに不安や恐怖を感じなくなった証拠です。腕組みをしなくなることが目標になりますので、頑張り甲斐があるというものです。
準備と計画
プレゼンテーションというと、見込み客企業の窓口担当者だけではなく、その上司や各部門のキーマンが出席することも多く緊張するものです。それだけに、用意周到な準備が必要となります。
プレゼンテーションに向けての情報収集
プレゼンテーションは、顧客の特性やニーズに合致した内容である必要があります。
1. 日頃、顧客の窓口担当と接していて、顧客がどのようなニーズがあるのかは把握しておくことが必要です。
2. 決算書には企業の課題が書いてあります。顧客が企業の場合は決算報告書を見ながら企業の課題を抽出しておきましょう。
3. また、企業理念や会社方針に沿った提案をする必要もあります。
4. プレゼンテーションに出席される方の部門、役職、年齢などの情報を収集してターゲットに適したプレゼンテーションをしましょう。
5. 顧客の業界情報や競合関係も提案には欠かせない要素です。
プレゼンテーション資料の作成
プレゼンテーション資料の作成といえば、パワーポイントでしょう。色々な機能がありますが、大切なことは、商品のPRだけではなく、提案が顧客のためになることを証明することです。そのために、上記の情報が役に立ちます。どのように、証明するかは次のとおりです。
1. 顧客のニーズに対して、自社がどのように対応できるのかを述べていきます。ニーズが経費節減にある企業に生産性向上の提案をしては的外れです。
2. 顧客の課題に対して、どのように課題を解決していくかについて述べていきます。
3. プレゼンの聴衆は部門を代表する人たちでしょう。そうなれば、課題解決に敏感な人たちであるはずです。
4. 部門としての課題についても解決していくストーリーを組み立てていきます。
5. 業界動向や競合関係からストーリーを組み立てていきます。
プレゼンテーション環境の確認
プレゼンテーション・ツールといえば、パソコン、パワーポイント、プロジェクターが中心となるでしょう。
プレゼンテーションに当たり、顧客企業の窓口担当者に次のことを確認しておく必要があります。
1. 許容時間
窓口担当者にプレゼンテーションのための許容時間を確認します。プレゼンテーションする側は、伝えたいことがたくさんありますが、聴く側は早く終わらせて欲しいと考えるものです。
2. 場所
プレゼンテーションを行う場所によって、プレゼンテーションが制限されることがあります。予定しているプレゼン機材が使えないことや、自社の出席者制限などがありますので要チェックです。
3. 出席者リスト
顧客企業側の出席者、自社の出席者のリストを作成します。参加者全員に配ります。
4. 設備
プレゼンテーションを行う機材・設備の報告を窓口担当者に確認します。過去の経験から言えば、顧客企業の設備と自社環境の相性が合わないことがあります。こうなると、せっかく作成した資料も使えなくなってしまいます。設備・機材は持ち込むのがお勧めです。
リハーサル
パワーポイントの資料ができたら、リハーサルを是非行ってください。お客様から指示された時間以内に終わる必要がありますが、多分、時間内には終わらないでしょう。また、プレゼンの文脈がおかしい部分、もっと強く訴求したほうが良い部分、わかりにくい部分なども明らかになります。参加者役に全体をチェックしてもらいましょう。自分が認知していない点が明らかになります。
注意点
1. プレゼンテーションでは前置きが長くなってしまうことが多くなりがちであり、強調すべき部分が説明できなくなることがあります。
2. 先に述べましたが、事実を積み上げて最後に結論を述べる演繹法を使った場合は、結論を述べる前にタイムアップしてしまう危険があります。これに対して、帰納法であれば、最初に結論を述べるので、タイムアップしても結論は述べることができます。
3. 想定質問集を用意すると、当日のやりとりのリハーサルができますので、想定質問集を是非つくるようにしてください。
4. プレゼンテーションに求められるのは、わかりやすさです。そのためには、数値をグラフ化するビジュアルです。ビジュアルを活用しましょう
5-5 プレゼンテーションの心構え・成功させるポイント
1. 声
大きくなく小さくなく、落ち着いた声のトーンで話をしてください。強調したい部分は大きめの声でトーンも高くするなど、プレゼンテーションの流れにおいて、メリハリをつけます。
2. 話のスピード
プレゼンテーションと言うと、「早く終わって欲しい」という心理が働いて、どうしても早口になるものです。意識的にゆっくり話すぐらいの意識でちょうどいいと思ってください。
3. 読み上げ原稿
慣れないうちは、読み上げ原稿は必ず用意してください。前2項について上手く運ばなくても、話ができれば、意思は伝わります。次の、比喩やジョークもここに書いておきます。アドリブですと滑った時にパニックになって何を話せば良いかがわからなくなってしまいますが、これを防止するためです。
4. 比喩
わかりにくい点については、比喩を用いて、わかりやすく説明します。
5. ジョーク
場を和ませるためには、ジョークが出るとベターです。
とは言うものの、最初のうちは、原稿を読み上げるのが精一杯でしょう。それでいいと思います。
あがらないためのルーティーンとお守り
プレゼンテーションのときは「こうしよう、ああしよう」と考えれば考えるほど、頭が真っ白になってしまうものです。私は緊張すると、手が震えます。手の震えを止めようとすると、余計に緊張します。そのような私でも効果のあったプレゼンテーションであがらないコツを紹介しましょう。
1. ルーティーン
まずは、ルーティーンです。ラグビーの五郎丸選手の忍者ポーズが話題になりました。ルーティーンやあがらないコツをご紹介しますので、ご参考にしてください。
① 輪ゴム法
あがって、頭が真っ白になっている状態は、交感神経が優勢になりアドレナリンが分泌されて、戦闘態勢をとっています。血液が筋肉や内蔵に回って、そのために、頭が真っ白になっているということですから、これを改善するために副交感神経を活性化させて戦闘態勢を解除する必要があります。
手首に巻いた輪ゴムをパチンと弾くことで、副交感神経を活性化させる方法があります。これを輪ゴム法と呼んでいます。
② お辞儀
開始時間が来て、プレゼンテーションを始める時にお辞儀をします。プレッシャーから早く終わりたいと考えて早口になりがちですが、お辞儀をゆっくりすることで、ゆっくりしたテンポを思い出します。そうすると、聴衆から聞きやすく落ち着いたように感じられるようになります。
2. お守り
プレゼンテーションという緊張した局面で、話をするときに心の拠り所(お守り)があると、頭が真っ白になってプレゼンテーションは大失敗することがありません。
① 司会台
お守りの一つが司会台です。
緊張すると手が震えることがありますが、カラオケの時も、マイクスタンドを使うと緊張してしまうので、マイクは両手で持つようにします。そうすると、安心して歌えるのです。
同じように力を与えてくれるのが司会台です。司会台の上部には原稿などを置くようになっていますが、枠があって前や左右から見られないようになっています。また、人間は危険に遭うと何かにすがりつきたくなります。
急な雷や地震の時には身近なものをしっかり握ります。司会台の枠を掴むことが何かにすがりつく代償行為となり、安心感がえられるようです。
また、野球でもサッカーでもホームゲームは安心してのびのびとプレイができます。これがテリトリーの心理効果です。司会台の枠で囲まれたが自分のテリトリーになり安心感を与えてくれるのです。
② 読み上げ原稿
プレゼンテーションに不慣れなうちは、読み上げ原稿を繰り返し読んで暗記できるぐらいにしましょう。しかし、暗記できていても緊張すると、記憶したことが飛んでしまうことがあります。そこで、お守りになるのが、読み上げ原稿です。読み上げ原稿を読んでいれば、落ち着いて思い出すようになります。慣れてくると、読み上げ原稿を持っているだけで心強いお守りになります。
司会台という自分の世界があり、読み上げ原稿という自信があれば、相手が何人いようが誰であろうが、平常心でプレゼンテーションに望めます。
失敗による自信を回復する
「失敗は成功の母である」と言われますが、なかなかそういう気持ちにはなれません。
私たちには、失敗を極端に嫌うという心理傾向があります。これを「損失回避性」といいます。1000円の損失は2250円の利得に匹敵することが分かっています。1回の断りによるダメージは2回の面談成功による喜びに匹敵するのです。とは言うものの、訪問活動を中止するわけには行きません。
営業マネージャーが、お客様を訪問するように繰り返し指導しても、営業マンの訪問の足は鈍ってしまうことがあります。
「頭ではわかっていても、足が言うことをきかない」状態になり、ストレスが溜まってしまいます。
このような時、マネージャーの出番です。部下がこのような状態になっていることを知らないとしたら、マネージャーとして怠慢です。
部下をどのように救ってあげますか?そのような時に、使えるのが「傾聴」「受容」「共感」のテクニックです。お酒を飲みに行っても良いでしょう。傾聴することで、ストレスは発散し、モチベーションも高まることでしょう。
「失敗学のすすめ」によると、失敗の種類は大きく3つに分かれます。
1. 織り込み済みの失敗の場合や、ある程度の損害を見越しての失敗。
2. トライアルの結果としての失敗のこと。
3. 回避可能であったが、対策を練らなかったことによる失敗。
「1」と「2」は経験や知識を重ねることで回避できる「成功の母」となりうる失敗ですが、「3」は予測可能であったにもかかわらず、予測しなかったために状況を悪くしてしまいます。
さて、私たちは、様々な問題を克服して成長しています。最初は難しかった「あいうえお」も足し算もできるようになってきました。
社会に出てからも、問題を乗り越えて大きくなってきました。「どうせ上手くいかない」と考えてしまうことがあります。それは、自分の為に働いているからでしょう。お客様のためという使命感があれば、モチベーションも下がることはないでしょう。
また、営業活動が成果に結びつかず、自信を失ったことが原因かもしれません。やる気を失ってしまったのでしょう。
そのような時には、自分の職務経歴書を書いてみてください。以前、職探しのため、職務経歴書を何枚も書きました。その時に「結構頑張ってきた」ということがわかり、自信を取り戻すことができるでしょう。